操業中の日本漁船がロシア警備艇から銃撃を受け、一人が死亡、三人と船とがロシアに拿捕され、国後島の古釜布に連行された。
二人は還されたが、船長は今も拘束されたまま。
協定にある海域・産物を逸脱した、いわゆる「密漁」が疑われている。…
まだ新しいニュースなのに、報道も少ないし「上」が怒っている気配もないので、すっかり「記憶に新しい」という感じがしない。なんとも腹立たしい。
ところで客観的に見て、北方領土はどっちに属していると考えるのが自然なのか? と思って手に取ったのがこの本である。
北方領土問題―4でも0でも、2でもなく (岩下明裕) 中公新書
一読してわかったことは、とにかく領土問題に客観的見解などない、ということだった。
だいたい、どこがあり得る「線」なのかということも、厳密にみると何とも言えないらしい。(千島列島の先かも知れない)
いわゆる四島に関しては、もともと日本が侵略・占領などのプロセスを経ないで(アジア諸地域と違って)領有・居住していたが、第二次世界大戦終了(敗戦)時に、当時のソ連がいわゆる四島を占拠し、17,000人の日本人住民を強制退去させ、そして今15,000人のロシア人が住んでいる。以上。なのである。
(先住民については言及していない)
日本政府としてはこれを不法占拠と見なしているが、ロシアにはロシアの言い分があり、お互いの主張は近くなったり遠くなったりしつつ平行線をたどったままなのだ。
共同宣言が出されたり、安全操業協定が結ばれたりしているが、いわゆる条約などの形で取り交わされた約束はなく、国境も確定していない。
殺人事件があっても激怒もできず、あろうことか何十発も銃弾を受け、一人は死んでいるにも関わらず訴追すらできないのだ。
膠着状態が打開されない一因は北方領土が両国間にとって真に切実な問題ではないからだ、という指摘もあるが、このような状況をとっとと解決しなければならないのは当然だろう。
ところでこの本は、領土(というか国境)問題に対してユニークな視点を提供している。
著者は、もとロシアと中国の国境画定プロセスの研究者である。(現・北大スラブ研究センター教授)
この二国は4,000kmを超える地続きの国境を有しており、その接点では日ロどころではない深刻な摩擦や大小の紛争が絶えなかった。「どっちがどっちのものだ」という議論は山ほどあり、果てがないように思われた。だが両国は、2005年に歴史的な合意に達したという。
それを現実にできたのは、法的根拠は措いておいて、現実的に「フィフティ・フィフティ」で、「ウィン・ウィン」の立場から、境界を分け合うという方法を採用できたからだった。
そこで副題の「4でも0でも、2でもなく」が出てくる。
日露が最も歩み寄った時、その案は取りあえず「2」が返り、残りの「2」は継続審議とする、というものだった。日本は「4」にこだわり、これを蹴った。だがそもそもロシアは、四島は自らの権利であって本来答えは「0」であり、「2」は単に温情だという考えなのだ。
法的な手続きにこだわれば、答えは「4」か「2」か「0」しか存在しないが、それではどちらかが「失った」という感覚は消えず、今後に禍根を残すばかりであろう。これでは埒があかん。真の両国、ひいてはアジア、さらに世界の利害を考えるなら、中ロに倣ってお互いに歩み寄れるところで手を打ち、双方が少しずつ「得た」結果にするのがよい。
著者は、そんな案を提示する。
結論だけポンと書けば、国後までは日本に戻せ、ということである。
これはいいセンかも知れない。
また数十年にもわたって出口のない駆け引きを繰り返すより、現実的な線で決着をはかるのがお互いのためになりそうだ。