山の遭難
暑さとか風邪とか雷とか、諸事情あって山に行ってないので、山の本を読むなりよ。
「山の遭難―あなたの山登りは大丈夫か」 羽根田治 (平凡社新書)
著者の羽根田氏と言えば、これまでにも気象遭難・道迷い遭難に関する本やロープワークのハンドブック、それに「雪山100のリスク」(編集サポート)などを読ませてもらっている“山の遭難の専門家”。
この本は新書で手軽だけど、山の遭難の小史から現状、内包される社会的な問題点などを手際よくまとめた、とても読み応えのある本です。
まず、1980年前後を境に、山岳会や学校山岳部を中心とした「自分の心技体を鍛えて挑む山」の時代から、特に中高年層(若者が、つまり3K環境である山からいなくなってしまったので)を中心とした「散策の延長として文字通り物見遊山で行く山」の時代へとフェイズの大変化があったとする指摘が面白い。
面白いと言いつつ、その過程で本来山は危険な場所であるという基本認識が置き去りにされている、という指摘なんですね。
一方面白いで済まない(どころか、胸が悪くなる)のが、後半にさまざま紹介されている遭難者たちの実態なんですな。
スリ傷程度で救助を要請するやつ。「民間のヘリは金がかかるから警察のヘリを飛ばしてくれ」と言い放つやつ。足が痙攣したことを「夕べ遅くまで仕事してたんだから仕方ないだろう」と開き直るやつ。救助されたあとに「頼んだ覚えはない」というやつ…。
自分の愉しみ、あるいは自分の過誤に他人を巻き込んでいる自覚もなければ陳謝・感謝もない勘違い野郎たちのオンパレードと来たもんだ。こんなところにも、例のモンスターペアレントやモンスターペイシェントに通じる「モンスター遭難者」がいるわけです。これ、日本社会をあまねく覆う病理なんじゃないだろうか。
ほかにも、遭難の類型(大した装備も持たずに北海道の嵐の山をパーティ分断の上突き進むとかね)、遭難したら人はどのようになるか、報われにくい救助隊の仕事…などなどと続く話題には、ひとつひとつ身につまされるものがあります。
山に行く人はぜひ、こうした本を精読したいものなんですが(読めばいいっちゅーもんでもないが)、本当に読んだ方がいい人って読まないんだよね、きっとね…。
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