山の人生
「遠野物語・山の人生 」 柳田国男 (岩波文庫)
前段の「遠野物語」はいつか読んだ。でも後段の「山の人生」と合わせて読むことで、改めて感心せざるを得ませんなぁ。
興味ポイントは2つあります。
ひとつは、山に、実際に人がいたという事実。
古きに渡来民族に追いやられたと思われる日本の先住民族ではないかという指摘です。彼らは顔赤く、背が高く、目が爛々と光る異人であった。
それらが里人とある時には接触したり小ぜりあいを起こしたり同化したりしつつ、やがて「山姥」「河童」「デェラボッチ」「天狗」の伝説に昇華していったと推論するわけです。
「山の人生」というタイトルはよくつけたもので、山にあった異形のものでもそれはかつて「普通の人間」であったという示唆ですね。
もうひとつは、この書が書かれた大正から昭和にかけての時代…まだ神隠しやらが「実際に」起こっていた同時代に、伝承や民間の文書をたんねんに、冷静に読み解くことでその裏に潜む「事実」をあぶりだそうという、柳田国男の先見性というか、科学の萌芽への驚きです。
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ところでちょっと突飛な連想ですが、次のようなことを思う。
ときは現代。
むかしのような迷信はなくなったろうか。実は今もあるんじゃないか。
ある種の都市伝説とか、スピリチュアル系・宗教系のもろもろとか、あるいはチェンメのように「祟る」といった別の形での不思議譚や恐怖譚は今も事欠きませんやね。
また、インターネット上でささやかれる数多の情報、データ、ウワサは本当にそれと信じていいものかどうか。
山の魑魅魍魎と、情報の海の魑魅魍魎…人間は大して進歩していないのでありますね。
それらを読み解くリテラシーというものを、当時の柳田国男以上に、現代人こそ持つべきなのかも知れません。
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