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2008/01/31 木

恋愛小説という名の山岳小説(?)

氷壁 (新潮文庫)
ヤマケイ読者推奨図書シリーズ。
その「第3位」に挙げられていた本です。
氷壁」 井上靖 (新潮文庫)


取りあえず山岳小説かと思って読み始めます。困難への挑戦か。ヤマ屋同士の友情(あるいは相剋)か…どうも様子が違う。(ヤマの描写は出て来ますが、主眼はそこにはありません)

当時切れるはずがないとされていた「ナイロンザイル」が穂高の岩稜で切れた。
この事実(実際にあった話)が狂言回しなのは間違いありません。

ならば、その「謎」を問う科学小説か。違う。(ナイロンザイルは岩角に当たって切れるのか? その結論は作中には書かれていません)

「切れた」のではなく「切った」あるいは「切られた」を追う警察/社会小説か。違う。(タイーホ者などは出ません)

どうもこれは、恋愛小説なんですね。
小説冒頭で「美人」が登場したところでイヤな予感がしたんですが…(笑)。

ヤマをやらない著者(井上靖)が、ナイロンザイルの切断事件になにをインスパイアされてなぜ恋愛小説を書いたのかはよくわかりません。その瞬間に恋愛小説が浮かんだわけではなさそうな気はする。あるいは、問題提起が意図だったか…。

主人公とその上司が「なぜ山に登るのか?」で議論するシーンがあります。先日読んだ「孤高の人」にも通底しているように思うのですが、山に登る動機は、実は人間の「死地への憧れ」のようなものではないのか。

そうすると、生の発露である恋愛を際立たせるという意味で、悪くない舞台設定なのかも知れません。

ヤマ屋はちょっとひねくれていますから(単純な本能をロマンや自己探求のように言ったりしますね)、恋愛小説になるにもこう、“ひとすじ縄では行かない”んでしょう。意外に、よくヤマを表した小説と言えるのかもね。

*
ところで、ナイロンザイルは切れるのか?

「実際にあった話」についてはWikipediaに経緯が書かれています。

当事者の石岡さんは一昨年亡くなり、折しもナイロン事件の総括書が昨年出ているようです。(これは改めて読んでみたいなぁ)

事実関係を調べていて、妙な事件に行き当たってしまいました。こんなニュースが…というか、こんなライブラリがあるんですねぇ…。

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Comments

「灰色の北壁」真保裕一,もそんな感じでした.

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