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2008/01/25 金

孤高の人

孤高の人 (上巻) (新潮文庫)
孤高の人」 新田次郎 (新潮社)


ヤマケイ読者推奨図書シリーズ。

昭和初期に「単独行での厳冬期縦走」で勇名を馳せた登山家、加藤文太郎をモデルにした小説。

新田次郎氏の小説は、どこまでが史実でどこから虚構なのかが判然としないんだけど(プロットや情景描写、セリフまわしなどは虚構であろうと思われる)、その虚構が何といっても面白い。
山になぜ登るのか。冬山とはなにか。雪とはどういうものか…単独行と孤独の狭間で揺れる主人公の思考に託して展開される機微に満ちたヤマ哲学。それらは、新田氏自身がヤマ歩きを通してしきりに考えたものであるに違いない。
その豊かなディテールが、岳人を…じゃないヤマケイ読者をいまも惹きつけてやまないのだろう。

読み進めるにつれて、(新田氏の小説のカラーだが)沈鬱な空気が漂い始めたりはするけれども、一気呵成に読了した。

(余談だけど、「孤高」と「偏屈」は表裏であると思われ(^^;))

*
加藤文太郎について、もっと知りたくなった。

はっ!と思い出したのは、手元にあるハズの「山と渓谷」2004年11月号。特集はズバリ、「単独行と加藤文太郎」。
本棚を見てみたら、あった。
買った当時は加藤文太郎って人を知らなかったのでほとんど読まなかったが(^^;)、知ってから読み返してみると大変に面白い。

主人公の最後のチャレンジの地・北鎌尾根の空撮。(遠望でも身の毛がよだつぞ)

主人公と奥さん、娘さんだけが実名になっている経緯。

遭難時のパートナーの描き方が事実と逆であると思われること。(そのページの筆者は、世が世なら訴訟モンだという。指摘はもっともだが、小説作法としてはこのように描くことに十分に意味はあると思う)

などなど、小説だけでなく、機会あればこちらも同時に読んだ方がいい。

*
底本として使われたという、「単独行」という本人の文章も残っている。青空文庫で全文を読むことができる。

「――今日は元日だ、町の人々は僕の最も好きな餅を腹一パイ食い、いやになるほど正月気分を味っていることだろう。僕もそんな気分が味いたい、故郷にも帰ってみたい、何一つ語らなくとも楽しい気分に浸れる山の先輩と一緒に歩いてもみたい。去年の関の合宿のよかったことだって忘れられない。それだのに、それだのに、なぜ僕は、ただ一人で呼吸が蒲団に凍るような寒さを忍び、凍った蒲鉾ばかりを食って、歌も唱う気がしないほどの淋しい生活を、自ら求めるのだろう。 ――」

加藤文太郎記念図書館のようすが詳しいサイトもある。

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