冒険の才能
「青春を山に賭けて」 植村直己 (文春文庫)
明大で山岳部に入る頃から、五大陸最高峰の単独登頂を果たすまでの手記。
(ヤマ屋のバイブルのひとつらしい。ヤマケイ1月号の読者投票でも、8位に入っていた)
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読中、何度も浮かんで来たのは「愚直」という単語だった。あだ名は「ドングリ」だった。不器用だった。でも逆にそれをバネにして、余人の到達し得ない高みを踏んだ。
冒険には才能がいる。
へこたれない、諦めない。そして、思いこむ力である。
功名心がまったくなかったとは言えない。
が、動機はいつも単純だった。心の赴くまま、ただ行きたい方向へと、思いこんだら一途に、どこへでもひょいと出かけて行く。実行に躊躇はない。
ふつふつと沸き上がってくるもの、それが才能というものにほかならない。
そういえば、この年末に山下清のエピソードがTVで流れていた。
巧まざる技巧、心の中で「描きたいもの」が素直にそのまま出てくる作風。
まさに才能だろう。
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また一節に、こうある。
「冒険--それは、まず生きて帰ることである。」
生きて帰り、語ることができて初めて、それは冒険と呼ばれる。
氏は、厳冬期のマッキンリー登頂を成し遂げたあと、雪原に消えた。クレバスに落ちてもひっかかるようにと、氏が考案した旗竿をつけたまま。
だから、最期の旅は未だ冒険にはなっていない。
氏はいま、どこの途中を彷徨っているのだろうか?
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