遙かなる旅路
「チベット旅行記」 河口慧海 (講談社学術文庫)
禅宗(黄檗宗)の僧であった著者が、20世紀初頭、鎖国中のチベットへ旅した時の紀行文。
旅、といっても物見遊山ではない。海を越え、山(ヒマラヤである)を超え、川で溺れ、雪にまみれ、あれ?これって20世紀のお話なんだよね?と時々錯覚を起こすほどの未開の大地を踏み、猛獣の声におののき、なにより人間に警戒しながら、約6年をかけ、約4,000kmの道のりを踏破した、遙かなロングドライブの記録です。
当時チベットは、欧州などの外圧から自らの宗教(すなわち国)を守るため、厳しい鎖国政策を敷いていた。外国人の入境はほとんど不可能と言われていた。それをただ、漢訳の仏典では解釈がまちまちでわからん、より原書に近い教典を、との一心で向かっていく。
まわりが危険だからと止めるのも「猛獣や盗賊に遭って殺されるならまた定めである」と斥け、溺れそうになっては「親類縁者への感謝と仏法を広めるために生まれ変わりを祈る」と覚悟を決め、荷物を亡くしては「(西洋のものを)持たぬがよかろうと仏陀の差配」と思い定める。心が座っている。
紀行文にいちいち仏法は書いてないんですが、覚悟そのもの、往き方そのものがすでに仏法なんですねぇ。
なんとまぁ有り難いお話でした。
しかし人間というのはとんでもないことを考え、成し遂げるもんだと舌を巻きます。(とても真似できん…)
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